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日本の半導体産業復興への大きな歩み――「Rapidus」の挑戦と北海道の未来

かつて世界を席巻していた日本の半導体産業は、近年、米国や台湾、韓国の台頭に押され、国際競争力を低下させていた。しかし、再び日本の技術力を世界に示すべく、政府や産業界が一丸となって取り組むプロジェクトが始まっている。その中心にあるのが、「Rapidus」だ。


先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」

この企業は、日本の技術革新の象徴として、最先端の半導体の国産化を目指し、2022年にトヨタ自動車、NTT、ソニーグループなどの大手企業の支援を受けて設立された。そして、2023年2月には北海道千歳市に工場を建設することを正式に発表し、2024年に入った現在、着実に計画が進行している。


アメリカの最先端技術との融合 ー AI半導体の共同開発

2024年1月27日、Rapidusは東京都内で記者会見を開き、AI(人工知能)向け半導体の開発と量産に向けて、新たな国際的パートナーシップを発表した。その相手は、アメリカのスタートアップ企業「テンストレント・ホールディングス」だ。

AI技術の発展が急加速する中、AI向け半導体の開発は自動運転、ロボティクス、ヘルスケアなど、さまざまな分野で不可欠な要素となっている。テンストレントは、高性能な演算処理技術を持ち、Rapidusはその技術を活用しながら、千歳市の新工場での量産体制を構築する計画を進めている。
Rapidusの小池淳義社長は、「AI半導体を搭載した次世代の産業ロボットや医療機器を、日本の強みである精密技術と組み合わせ、世界標準となる製品を生み出したい」と意気込みを語る。一方、テンストレントのCEOジム・ケラー氏は、「スタートアップではあるが、最も優秀なエンジニアが集まる企業として、Rapidusと協力し、高性能な半導体を開発したい」と述べた。


工場建設から1年 ー 着実に進むインフラ整備

Rapidusの千歳工場は、2023年9月の起工式から約半年が経過し、2024年1月時点で工事の進捗率は約17%に達している。NHKが撮影した映像では、工場の骨組みが立ち上がり、工事が順調に進行している様子が確認された。計画通りに進めば、2025年4月には試作ラインの稼働が開始される予定だ。

しかし、工場建設に伴い、新たな課題も浮かび上がっている。その一つが、建設作業員の宿泊先の確保だ。


建設作業員の宿泊施設不足 ー 新たな宿泊インフラの整備

現在、千歳工場の建設現場では約1000人の作業員が従事しているが、2024年夏には4000人以上に増加すると見込まれている。この大規模な労働力を受け入れるため、地元建設会社が移動式宿舎の設置を急ピッチで進めている。

千歳市の建設会社「アーキビジョン21」は、1棟あたり30部屋の移動式宿舎を製造し、それぞれの部屋にはキッチンやシャワーなどの設備が整えられている。現在、3棟がほぼ完成しており、2024年2月中に建設予定地に搬入される予定だ。さらに、21棟・計630室の宿舎建設が計画されている。

建設会社の丹野正則社長は、「千歳市に何十年も住んでいるが、これほどの大規模プロジェクトは初めてだ。北海道の寒冷地でも快適に過ごせる宿舎を提供していきたい」と語る。


半導体産業の発展に不可欠な「人材確保」の課題

工場稼働後は、技術者500~600人を含む1000人規模の人員が必要になる見通しだ。しかし、北海道では理工系の人材が不足しており、すでに道外への流出が問題となっている。

2023年度のデータによると、北海道の大学や高専で理工系を専攻し、企業に就職した学生約3200人のうち、半導体関連企業に就職したのはわずか100人。その半数以上が道外企業に就職している。このため、産官学連携による人材育成の強化が求められている。

北海道経済産業局は、Rapidusの2027年の量産開始や、関連企業の進出に対応するため、北海道内での人材確保に向けた支援策を講じる必要があると指摘している。


工業団地の不足 ー 新たな産業拠点の整備が急務

Rapidusの進出に伴い、千歳市や隣接する恵庭市では、半導体関連企業の誘致が進んでいる。千歳市が実施した調査では、4000社のうち528社が回答し、36社が市内でのオフィスや工場設立の可能性があると答えた。また、恵庭市では70社のうち17社が進出の可能性を示している。

しかし、千歳市の既存工業団地にはほとんど空きがない状態であり、新たな工業団地の造成が必要となっている。そのため、千歳市はRapidusの工場近くの柏台地区に約100ヘクタールの新たな工業団地を整備する方針を打ち出している。


半導体産業の経済波及効果と今後の展望

北海道経済連合会などで構成される「北海道新産業創造機構」は、Rapidusの工場が2棟稼働した場合、2036年度までの14年間で18兆8000億円の経済波及効果があると試算している。この試算には、関連企業70社の進出が前提となっており、産業集積が進めば、さらなる経済成長が期待される。

北海道二十一世紀総合研究所の横浜啓調査部長は、「産業集積が進めば、道内企業もサプライチェーンに組み込まれる可能性が高まる。しかし、道央圏以外の地域では恩恵を受けにくいという懸念もある。人材の確保と、道内経済全体への波及が課題だ」と指摘している。

Rapidusの進出により、北海道は日本の半導体産業復活の拠点となる可能性を秘めている。しかし、そのためには、持続可能な人材育成、インフラ整備、関連企業の誘致が不可欠である。日本の未来を担う半導体産業の成功に向け、政府、企業、教育機関が一丸となって取り組むことが求められている。




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