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CMOS ICは、「相補型金属酸化膜半導体集積回路」の略称で、P型MOSFET(pMOS)とN型MOSFET(nMOS)を組み合わせた回路構造を持つ集積回路です。この技術は、低消費電力、高速動作、高集積度といった特性を備えており、現代の電子機器において広く採用されています。
CMOS ICの開発
1. CMOS技術の発明者
CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)技術は、1963年にフランク・ワンラスト(Frank Wanlass)によって発明されました。ワンラストは当時、米国RCA(Radio Corporation of America)に所属しており、彼の論文「Low Standby Power Complementary Field Effect Transistor Logic」において、CMOSの基本的な概念を初めて提案しました。
ワンラストは、pMOSFETとnMOSFETを相補的に配置することで、ほぼゼロに近い静止電流(リーク電流)を持つ回路を構築できることを示しました。この技術は、従来のMOS技術と比べて圧倒的に低消費電力であることが特徴でした。
2. 開発の背景
CMOS技術の開発には、当時の半導体技術の進化とトランジスタ技術の発展が深く関わっています。
- 1950年代~1960年代: 半導体技術が進展し、バイポーラトランジスタが主流でしたが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)が登場し、低消費電力と高集積度のメリットが注目されるようになりました。
- 1960年代前半: MOS技術が開発され、特にpMOS(P型MOSFET)が広く利用されていました。一方で、nMOSの研究も進められていましたが、CMOS技術はまだ確立されていませんでした。
- 1963年: ワンラストがRCAにおいてCMOS技術の基本構造を発明し、その低消費電力特性を発表しました。
CMOS ICの基本構造
CMOS ICの基本単位はインバータ(NOTゲート)であり、以下のような構造を持ちます。
- P型MOSFET(pMOS):ソースが電源電圧(VDD)に接続され、ゲートに低電圧(ロジック0)が印加されると導通します。
- N型MOSFET(nMOS):ソースが接地(GND)に接続され、ゲートに高電圧(ロジック1)が印加されると導通します。
これらを直列に接続することで、入力信号に応じて出力が反転するインバータ回路が構成されます。この基本構造を組み合わせることで、AND、OR、NAND、NORなどの論理ゲートや、より複雑なデジタル回路を構成することが可能です。
CMOS ICの特徴
1. 低消費電力
CMOS回路は、スイッチング時(状態が変化する瞬間)にのみ電流が流れ、静止時にはほとんど電流が流れません。これにより、他の論理回路方式と比較して消費電力を大幅に抑えることができます。
2. 高集積度
MOSFETは構造がシンプルであり、微細化が容易です。これにより、チップ上に多数のトランジスタを集積することが可能となり、複雑な回路を小型のチップ内に実装できます。
3. 高速動作
微細化技術の進歩により、MOSFETのスイッチング速度が向上し、高速なデジタル回路の実現が可能となっています。
4. 広い動作電圧範囲
CMOS ICは、動作電圧の範囲が広く、設計の柔軟性が高いという利点があります。
CMOS ICの用途
CMOS ICは、その特性から以下のような幅広い分野で活用されています。
マイクロプロセッサ
パソコンやスマートフォンのCPUとして使用され、高速演算と低消費電力を実現しています。
メモリデバイス
DRAMやフラッシュメモリなどの記憶装置に使用され、高密度かつ低消費電力のメモリを提供します。
イメージセンサー
デジタルカメラやスマートフォンのカメラに搭載されるCMOSイメージセンサーは、高速読み出しと低消費電力が求められる用途に適しています。
アナログ・デジタル混載回路
CMOS技術は、デジタル回路だけでなく、アナログ回路やその混載回路にも応用され、各種センサーや通信デバイスなどで活用されています。
CMOS ICの歴史と発展
CMOS技術は1960年代に発明され、1970年代以降、低消費電力の特性が評価され、電卓や時計などのバッテリー駆動機器に採用されました。その後、微細化技術の進歩に伴い、集積度と動作速度が飛躍的に向上し、パソコンやスマートフォンなどの高性能デバイスの中核技術として定着しました。
現在では、ナノメートル単位の微細加工技術により、数十億個のトランジスタを単一のチップ上に集積することが可能となり、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先端分野でもCMOS技術が不可欠な存在となっています。
CMOS ICの今後の展望
CMOS技術は成熟した技術とされていますが、さらなる微細化や新材料の導入、3次元集積技術の開発などにより、性能向上が続けられています。特に、以下のような分野での進展が期待されています。
低電圧動作:さらなる省電力化のため、動作電圧の低減が進められています。
高周波特性の向上:5G通信やミリ波レーダーなど、高周波で動作するデバイスへの応用が期待されています。
新材料の採用:シリコンに代わる新たな半導体材料の研究が進められ、高性能化や省電力化が図られています。
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