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インテルの256bit MOS-SRAM「SRAM 1101」について

1. はじめに

インテル(Intel)は1968年に設立された半導体企業であり、メモリ技術の発展において重要な役割を果たしてきた。同社が1969年に発表したSRAM 1101は、世界初の商用256ビットMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)SRAM(Static Random Access Memory)であり、半導体メモリ市場に革命をもたらした。ここでは、SRAM 1101の概要、技術的特徴、当時の市場背景、影響について詳細に説明する。


2. SRAM 1101の概要

SRAM 1101は、インテルが開発した初期の半導体メモリであり、256ビットの容量を持つ静的RAMである。本チップは、トランジスタ-トランジスタロジック(TTL)との互換性を持ち、主に小型電子機器や試作段階のコンピュータシステムに採用された。
- 製品名:Intel 1101
- 発売年:1969年
- メモリ容量:256ビット(32×8ビット)
- アーキテクチャ:MOS技術を使用した静的RAM(SRAM)
- パッケージ:DIP(Dual Inline Package)
- 用途:組み込みシステム、初期コンピュータ、産業用途

SRAM 1101は、従来の磁気コアメモリに比べて小型で低消費電力なことから、次世代のコンピュータアーキテクチャに適用される技術的基盤を築いた。


3. 技術的特徴

3.1 MOS技術の採用
SRAM 1101は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)技術を活用しており、これは従来のバイポーラトランジスタに比べて消費電力が低く、集積度が高いという利点を持つ。

3.2 静的RAMの特性
本メモリは、SRAM(静的RAM)として設計されており、DRAM(Dynamic RAM)とは異なり、リフレッシュ動作を必要としない。そのため、高速アクセスと低消費電力が求められる用途に適していた。

3.3 高速アクセス
当時の標準的なメモリ技術と比較して、SRAM 1101は高速なデータアクセスが可能であり、プロセッサの性能向上に貢献した。磁気コアメモリと比べると、より迅速なデータ読み書きが可能だった。

3.4 低消費電力
MOS技術の採用により、当時主流であった磁気コアメモリやバイポーラトランジスタを用いたメモリよりも消費電力が抑えられた。これは、バッテリー駆動の機器において特に重要な利点となった。


4. 市場背景と影響

4.1 磁気コアメモリから半導体メモリへの移行
1960年代後半、コンピュータ業界では磁気コアメモリが広く使用されていたが、半導体技術の進歩により、より小型で高性能なメモリの開発が進められていた。SRAM 1101の登場は、磁気コアメモリから半導体メモリへの移行を加速させる要因となった。

4.2 インテルの事業戦略
インテルは当初、メモリメーカーとして事業を展開していた。SRAM 1101は、同社が市場に参入した最初のメモリ製品の一つであり、その成功は後のDRAM(Dynamic RAM)やEPROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)の開発につながった。

4.3 競争環境
当時の半導体業界では、フェアチャイルド・セミコンダクターやテキサス・インスツルメンツ(TI)といった企業が先進的なメモリ技術を開発していた。インテルはSRAM 1101を通じて競争に参入し、次世代のメモリ技術開発への足掛かりを築いた。

4.4 影響とその後の発展
SRAM 1101の技術は、その後のメモリ技術の発展に大きな影響を与えた。
- Intel 1103の開発: 1101の成功を受けて、インテルは1970年に1103(1KビットDRAM)を開発し、これが世界初の商用DRAMとなった。
- SRAMの進化: 1101の技術を基に、より大容量かつ高速なSRAMが開発され、組み込みシステムやキャッシュメモリとして広く使用されるようになった。


5. まとめ

SRAM 1101は、インテルが初めて市場に投入した商用メモリチップの一つであり、MOS技術を活用した最初期のSRAMとして、半導体メモリの発展に大きな影響を与えた。256ビットという限られた容量ではあったものの、その技術革新は、後の半導体業界の発展に寄与し、特にDRAM技術の発展への橋渡しとなった。

本製品は、磁気コアメモリの代替としての可能性を示し、低消費電力かつ高速なメモリ技術の道を開いた。さらに、インテルがメモリメーカーとしての地位を確立し、最終的にマイクロプロセッサ市場へと進出する礎を築いた点も注目に値する。

このように、SRAM 1101は単なる技術的な進歩にとどまらず、コンピュータ産業全体の発展に影響を与えた歴史的な製品であった。今後の半導体技術の進化においても、その基礎となった技術や設計思想は受け継がれていくことだろう。

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