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European Chips Act(ヨーロピアン・チップス法案)は、2022年に欧州委員会が提案した戦略的枠組みで、EU全体の半導体産業を強化することを目的としています。この法案は、技術の進化に伴うグローバルな半導体需要の急増や、サプライチェーンのリスク、地政学的競争を背景に策定されました。
戦略的な目的
European Chips Act は、以下の主要な戦略的目標を掲げています:
1. グローバル市場シェアの拡大
- 2030年までにEUの半導体生産量を世界市場の20%に引き上げることを目指しています。これは、2022年時点での市場シェア(約10%)を倍増させる目標です。
- 世界の半導体需要が2020年代末までに倍増すると予測される中で、EUはこの成長を戦略的な機会と捉えています。
2. 技術革新の推進
- 次世代の半導体技術(例えば、2nm以下のプロセス技術)の研究開発に注力し、グローバル競争で技術的優位性を確立します。
- 研究から商業化までのサイクルを短縮するため、大学、研究機関、企業との連携を強化しています。
3. サプライチェーンの強化
- 半導体製造プロセスの各段階をEU内に統合し、地政学的リスク(例:台湾・中国などへの依存)の軽減を図ります。
- 特に、原材料供給、製造設備、ファウンドリー(半導体製造施設)の確保に重点を置いています。
4. 環境目標との統合
- EUの「グリーンディール」政策に合わせて、エネルギー効率の高い半導体技術の開発と製造プロセスの低炭素化を推進します。
5. 緊急時対応能力の強化
- 半導体不足時に備え、EU内で迅速に製品供給を再編できる体制を整備します。
競合者の定義と対応
European Chips Actは、半導体市場における競合者を明確に意識し、それに対応するための戦略を設計しています。
1. 主な競合者
- アメリカ合衆国:
- アメリカは「CHIPS Act」により、半導体産業に520億ドルの投資を表明しており、TSMCやSamsungなどの主要メーカーを誘致しています。
- EUはこれに対抗し、自国企業への補助金や研究開発支援を強化しています。
- 中国:
- 中国政府は「Made in China 2025」戦略の一環として半導体産業を国家的に支援しており、特に低価格帯の半導体で競争力を高めています。
- EUは中国の影響を抑えるため、高付加価値技術に重点を置いて競争優位性を確保しようとしています。
- アジアの先進国(台湾・韓国):
- 台湾(TSMC)や韓国(Samsung)は、最先端プロセス技術で世界市場をリードしています。
- EUは、これらの国々と協力しつつ、独自の競争力を高めることを目指しています。
2. 競合への対応戦略
- EU域内投資の促進:
- 「European Chips Act」では、公共資金と民間投資を組み合わせて、最大430億ユーロの投資を計画しています。
- 既存の企業だけでなく、新規参入を支援し、競争環境を活性化させます。
- 技術的主権の確立:
- EUは、「技術的主権(technological sovereignty)」を掲げ、外部依存を減らし、EU内で完結する半導体生産体制を構築します。
- これにより、地政学的リスクの軽減と、戦略的重要技術の確保を図ります。
- 国際協力:
- 競合であると同時に、台湾や韓国などの技術力を活かし、EU内での製造や技術移転を進めます。
- また、アメリカとの連携を強化しつつ、競争を管理していく戦略を模索しています。
まとめ
European Chips Actは、EUが半導体産業において技術的自立と競争力強化を目指すための包括的な政策です。技術革新、サプライチェーン強化、環境目標の達成などを通じて、アメリカ、中国、アジア先進国と競争する一方で、国際的な協力を維持しながらグローバル市場での優位性を確保することを狙っています。この法案は、EU全体の経済成長と安全保障の両面において重要な役割を果たすとされています。
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