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European Chips Act(欧州チップス法)の戦略的世界観における日本

European Chips Act(ヨーロピアン・チップス法案)の戦略的世界観において、日本の位置づけは次の3つの観点で整理できます。


1. 日本の技術的役割

日本は、半導体製造プロセスにおける重要な分野で高い技術力を持っており、EUにとって戦略的パートナーと位置づけられています。

主要分野
- 製造装置:
日本企業(例: 東京エレクトロン、ニコン)は、リソグラフィー装置やエッチング装置など、高精度な半導体製造装置で重要なシェアを占めています。これらの技術は、EU企業(ASMLなど)が提供する最先端EUVリソグラフィー技術との補完関係を形成しています。
- 材料供給:
日本はシリコンウェハー、レジスト、化学材料などの半導体製造材料の分野でも強力なプレーヤーです。これらはEUの半導体製造チェーンを支える重要なリソースです。
- 特定技術の独占的地位:
日本が独占的な技術や材料を供給できる点は、EUにとって地政学的リスクを分散する役割を果たしています。中国や台湾からの供給依存を低減する一助とされています。


2. 日本との協力関係

EUと日本は、「技術的主権(Technological Sovereignty)」と「サプライチェーンの安定性(Supply Chain Stability)」という共通の目標を共有しています。このため、EUは日本との協力を以下のように構築しています。

二国間協力
- 経済連携協定(EPA):
EUと日本は、2019年に発効した経済連携協定(EPA)を通じて、経済および技術協力を深めています。これにより、半導体や電子部品の貿易や投資が促進されています。
- サプライチェーン協定:
日本はEUの「European Chips Act」の目的に貢献する形で、素材供給や技術協力を提供しています。特に、原材料や製造装置の安定供給が焦点です。

国際枠組みでの協力
- G7やQUAD(日本、アメリカ、インド、オーストラリア)を通じた連携:
日本とEUは、民主主義国家間での技術協力を重視し、地政学的にリスクの高い国(例: 中国、ロシア)への依存を減らすための共同行動を模索しています。
- 世界的な半導体基準作成:
日本とEUは、国際半導体基準の作成や知的財産権の保護など、半導体市場のルール作りにも共同で取り組んでいます。


3. 日本の位置づけに対するEUの戦略的視点

協力的な競争相手
日本はEUにとって重要な協力相手ですが、以下の観点では競争相手ともみなされています:
- 日本も自国の半導体産業政策(2021年の「半導体・デジタル産業戦略」など)を進めており、EUとの市場シェア争いの側面も存在します。
- 特に、東南アジア市場やアメリカ市場への輸出競争が激化しています。

補完的パートナー
EUは、日本の技術と資源を活用することで、独自の戦略的目標(2030年までに世界市場シェア20%の達成)を補完しています。日本の得意分野を活かしつつ、EU域内での研究開発・製造能力の拡大を図っています。

地政学的バランスの一翼
日本は、EUがアメリカ、中国、アジア(特に台湾と韓国)に対抗するための地政学的バランスを取る重要なパートナーとされています。日本との協力により、EUはサプライチェーンの多様化と安定性を高めることが期待されています。


まとめ

European Chips Actの戦略的世界観において、日本は重要な技術供給国であり、協力相手でありながら、一部では競争相手としても捉えられています。EUは、日本の高い技術力や素材供給能力を活用することで、自らの半導体政策目標を達成し、グローバルなサプライチェーンの安定化と技術的主権の確立を目指しています。一方、日本との協力を深めることは、アメリカや中国との地政学的競争の中でEUの影響力を拡大する重要な戦略でもあります。



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