TOP > 半導体技術・産業動向の教養 > ミニコンピュータ PDP-1
PDP-1(Programmed Data Processor-1)は、1960年にデジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)が開発した、初期のミニコンピュータの一つです。このコンピュータは、それまでの大型コンピュータとは異なり、コンパクトで比較的低価格な設計が特徴でした。PDP-1は、個人や小規模な研究機関、大学などが使えるコンピュータとして設計されており、インタラクティブなコンピューティングの概念を広める重要な役割を果たしました。
1. PDP-1の基本仕様
- 開発者:DEC(Digital Equipment Corporation)
- 発表年:1960年
- 価格:約12万ドル(当時)
- プロセッサ:18ビット単純命令セット(CISC)
- メモリ:4Kワード(18ビット/ワード)= 約9KB(拡張可能)
- 入出力装置:
- 紙テープリーダー / パンチャー
- タイプライタ端末
- グラフィックディスプレイ(CRT)
- 磁気テープ装置(オプション)
2. PDP-1の特徴
① 初の「ミニコンピュータ」
PDP-1は、当時のコンピュータ(IBM 7090など)が大型で高価なメインフレームだったのに対し、机に置けるサイズでありながら強力な計算能力を持っていたため、「ミニコンピュータ」と呼ばれました。これは、後のPDPシリーズやVAXシリーズへと続く、DECの成功の礎となりました。
② インタラクティブコンピューティングの始まり
PDP-1は、当時主流だったバッチ処理ではなく、ユーザーが直接コンピュータと対話できるインタラクティブコンピューティングを初めて実現したコンピュータの一つでした。この概念は、後のタイムシェアリングシステム(TSS)やパーソナルコンピュータ(PC)の発展につながります。
③ グラフィックディスプレイの活用
PDP-1は、CRT(陰極線管)ディスプレイを使用してグラフィックを表示する機能を備えた最初のコンピュータの一つでした。この機能は、初期のコンピュータグラフィックスやビジュアルコンピューティングの発展に大きく貢献しました。
3. PDP-1とコンピュータ文化
PDP-1は、技術的な進歩だけでなく、コンピュータ文化の発展にも重要な影響を与えました。
① 世界初のコンピューターゲーム「スペースウォー!」
PDP-1上で動作した最も有名なプログラムの一つが、世界初のコンピューターゲーム「スペースウォー!」(Spacewar!、1962年)です。このゲームは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生によって開発され、後のビデオゲーム産業の発展に大きな影響を与えました。
② ハッカー文化の発祥
PDP-1は、MITのTech Model Railroad Club(TMRC)を中心としたハッカーたちにとって、最初の「ハッカブルな」コンピュータでした。彼らは、コンピュータを単なる計算機としてではなく、創造的なツールとして活用し、プログラムの最適化や新しいソフトウェアの開発に取り組みました。ここから、「ハッカー文化」が生まれ、今日のオープンソース文化やソフトウェア開発の基盤となりました。
4. PDP-1の後継機と影響
① PDPシリーズの発展
PDP-1の成功を受け、DECは次々とPDP-4、PDP-7、PDP-8(最も有名)、PDP-10、PDP-11などのシリーズを発表しました。これらのコンピュータは、特に大学、研究機関、企業のエンジニアリング部門などで広く使われ、コンピュータの普及に大きく貢献しました。
② UNIXの誕生
PDP-1の後継機であるPDP-7上で、ケン・トンプソンとデニス・リッチーがUNIXの最初のバージョンを開発しました。このUNIXは、現在のLinuxやmacOSなどのオペレーティングシステムの基礎となっています。
5. まとめ
PDP-1は、単なるコンピュータとしてではなく、コンピュータの使われ方そのものを変えた画期的なマシンでした。主な特徴としては、
1. 初のミニコンピュータとして、コンパクトで低価格だった
2. インタラクティブコンピューティングの概念を広めた
3. 初のコンピューターゲーム「スペースウォー!」の誕生
4. ハッカー文化の発祥に貢献した
5. 後継機がUNIXなどの近代OSの開発につながった
PDP-1は、その後のコンピュータ産業、プログラミング文化、グラフィック技術、ゲーム業界など、幅広い分野に多大な影響を与えた歴史的なマシンとして記憶されています。
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