TOP > 半導体技術・産業動向の教養 > Intel 8008 の概要
Intel 8008 は、1972年にインテル(Intel)が発表した世界初の8ビット・マイクロプロセッサの一つであり、後のパーソナルコンピュータ(PC)や組み込みシステムの基礎を築いた重要なプロセッサです。Intel 8008は、商業的には大きな成功を収めなかったものの、後に登場する Intel 8080 や x86 アーキテクチャの先駆けとなった点で、コンピュータ史において重要な役割を果たしました。
1. Intel 8008 の基本仕様
- 発表年:1972年
- 開発元:Intel
- アーキテクチャ:8ビット
- 動作クロック:500kHz(0.5MHz)
- 最大メモリ:16KB
- トランジスタ数:3,500個
- アドレスバス:14ビット
- 命令セット:8ビット
- パッケージ:18ピンDIP(Dual Inline Package)
2. Intel 8008 の開発経緯
Intel 8008 は、もともと コンピュータ端末用のカスタムプロセッサとして設計されました。
起源:Datapoint 2200 向けプロセッサ
Intel 8008 の設計は、テキサス州ヒューストンの CTC(Computer Terminal Corporation)(後の Datapoint 社)が開発した Datapoint 2200 端末のためのプロセッサとして始まりました。
- CTCは、独自のミニコンピュータ端末 Datapoint 2200 を開発するにあたり、Intel に 集積回路(IC)としてのCPUを作ることを依頼。
- Intel は、既に開発していた 4004(4ビット・プロセッサ)を改良し、8ビット化したプロセッサとして 8008 を設計。
- しかし、CTC は最終的に Intel 8008 を採用せず、独自の TTL(Transistor-Transistor Logic)を用いた設計を選択。
- その結果、Intel は 8008 のライセンスを保持し、1972年に汎用プロセッサとして市場に投入しました。
3. Intel 8008 の技術的特徴
Intel 8008 は、現在のCPUと比較すると 非常にシンプルな構造 ですが、当時としては画期的な技術を採用していました。
① 8ビットアーキテクチャ
- 8008 は Intel 4004 の 4ビット設計を拡張し、8ビット処理を可能にした最初のプロセッサの一つ。
- 8ビットのデータバスを持ち、より高速で複雑な計算が可能になった。
② 14ビットのアドレスバス
- アドレス空間は 16KB(16,384バイト)。
- これは 4004(最大 640バイト)と比べ、大幅に拡張されていた。
③ マイクロプロセッサとしての先駆的存在
- トランジスタ 3,500 個を集積し、シングルチップで動作する CPU を実現。
- TTLロジック回路を使用する従来のミニコンピュータとは異なり、よりコンパクトな設計。
4. Intel 8008 の限界と後継機
① 制限の多い設計
- 18ピンDIP パッケージの制約により、データバスとアドレスバスが多重化され、メモリアクセスが遅かった。
- 動作クロックが 500kHz と低速 であり、高度な計算処理には向いていなかった。
② Intel 8080 への進化
Intel は 8008 の制約を克服するため、1974年に Intel 8080 を発表。
- Intel 8080 は、8008 のアーキテクチャを改良し、より高性能な 8ビットプロセッサとして登場。
- アドレスバスが 16ビットになり、メモリ空間が 64KB に拡大。
- 動作クロックが 2MHz に向上し、処理能力が大幅に向上。
Intel 8080 は、世界初のパーソナルコンピュータ「Altair 8800」 に採用され、PCの歴史を切り開いた。
5. Intel 8008 の影響と歴史的意義
Intel 8008 は、商業的には成功しなかったものの、後のマイクロプロセッサの開発に大きな影響を与えました。
① マイクロプロセッサ革命の始まり
- Intel 8008 は、単一チップで CPU を実現した初期のプロセッサとして、マイクロコンピュータの時代を切り開いた。
- 従来のミニコンピュータに比べ、はるかにコンパクトで低コストな設計が可能に。
② PC の基盤となる技術
- Intel 8008 のアーキテクチャは、後の Intel 8080、Zilog Z80、Intel 8086(x86アーキテクチャ)へと発展。
- 最終的に IBM PC に搭載された Intel 8088(8086 の派生版)へと進化し、今日の PC の基盤を築いた。
③ 組み込みシステムへの影響
- Intel 8008 は、大規模コンピュータ向けではなく、小型端末や組み込みシステム向けのプロセッサの可能性を示した。
- その後の 8ビットマイコン市場の拡大に貢献。
6. まとめ
Intel 8008 の重要性
- Intel 初の 8ビット・マイクロプロセッサ
- コンパクトな設計で、マイクロコンピュータの時代を切り開いた
- 後の Intel 8080、8086 などのプロセッサに影響を与え、PC の進化につながった
- 商業的には成功しなかったが、技術史において非常に重要なマイルストーンとなった
Intel 8008 は、今日のコンピュータの発展に大きな影響を与えた歴史的なプロセッサであり、「マイクロプロセッサ革命の始まり」を象徴する製品といえます。
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