TOP > 半導体技術・産業動向の教養 > アルテア8800(Altair 8800)の概要
アルテア8800(Altair 8800) は、1975年に米国のMITS(Micro Instrumentation and Telemetry Systems)が開発・発売した世界初の商業的に成功したパーソナルコンピュータ(PC) です。
アルテア8800の登場により、個人が手に入れられるコンピュータの時代が始まり、後のパーソナルコンピュータ革命の火付け役となりました。
また、このコンピュータは Microsoft(当時はMicro-Soft)誕生のきっかけとなった ことでも知られています。
1. アルテア8800の基本仕様
- 開発元:MITS(Micro Instrumentation and Telemetry Systems)
- 発売年:1975年
- 価格:
- 組み立てキット:$397
- 完成品:$495
- CPU:Intel 8080(8ビット、2MHz)
- メモリ:256バイト(拡張可能)
- ストレージ:なし(後にカセットテープインターフェース追加)
- 入出力:
- スイッチとLED(初期モデル)
- 後にキーボードとディスプレイを接続可能に
- 拡張スロット:S-100バス(Altairバス)
- オペレーティングシステム:なし(後にAltair BASICなどが利用可能)
2. アルテア8800の誕生
1974年、MITSは 電卓用のマイクロプロセッサ「Intel 8080」 を活用して、小型で低価格なコンピュータを開発しようと考えました。
当時、コンピュータは大型で非常に高価(数万ドル~数百万ドル)であり、個人が所有するものではありませんでした。しかし、MITSは 「個人が手に入れられるコンピュータを作る」 というビジョンを持ち、ホビイスト向けのキットとしてアルテア8800を開発しました。
アルテア(Altair)は、天文学の「わし座」の一等星アルタイル(Altair) に由来しています。MITSの創業者エド・ロバーツが、「名前を決めかねていた」ところ、彼の娘が「『スタートレック』のエピソードに出てくる『Altair 6』という星の名前がいいのでは?」と提案し、採用されたと言われています。
3. アルテア8800の特徴
① 低価格なコンピュータキット
当時の商用コンピュータは数千ドル以上しましたが、アルテア8800は$397という破格の値段で販売されました。この価格により、多くのホビイストや技術者がコンピュータを手に入れることができました。
② インテル8080プロセッサ搭載
アルテア8800は、当時最も先進的な8ビットCPU「Intel 8080」(2MHz)を採用しました。これは、従来のTTL論理回路を組み合わせたコンピュータに比べ、はるかに小型で低コストな設計を可能にしました。
③ S-100バス(Altairバス)
アルテア8800には 拡張スロット(S-100バス) があり、メモリ増設や周辺機器の追加が可能でした。
この S-100バス規格 は、後に多くのメーカーが採用し、1970年代後半~1980年代初頭のマイクロコンピュータの標準バスとなりました。
④ スイッチとLEDによる操作
アルテア8800の初期モデルには、キーボードやディスプレイがなく、前面パネルのスイッチとLEDでプログラムを入力する必要がありました。これは非常に手間のかかる作業でしたが、当時のコンピュータ愛好家にとっては画期的な技術でした。
4. アルテア8800とMicrosoftの誕生
アルテア8800の登場により、「このコンピュータで動作するプログラムを開発しよう」と考えたのが ビル・ゲイツとポール・アレン でした。
① Altair BASIC の開発
1975年、ビル・ゲイツとポール・アレンは、アルテア8800向けのプログラム 「Altair BASIC」(BASICインタプリタ)を開発しました。
- BASIC(Beginner’s All-purpose Symbolic Instruction Code)は、初心者向けのプログラム言語で、キーボードから簡単にプログラムを入力できる 画期的な仕組みでした。
- MITSはこのソフトウェアを採用し、Altair BASICを搭載したコンピュータが販売されるようになりました。
② Microsoft の誕生
このAltair BASICの成功を機に、ビル・ゲイツとポール・アレンは 「Micro-Soft」 という会社を設立しました。
後に、会社名は 「Microsoft」 へと改名され、今日の巨大IT企業の出発点となりました。
5. アルテア8800の影響
アルテア8800は、1970年代後半の パーソナルコンピュータ革命 を引き起こしました。
① パーソナルコンピュータの概念を普及
アルテア8800は、「コンピュータは個人が所有できるもの」 という考えを広めました。
このコンセプトは、後の Apple I(1976年)、Apple II(1977年)、Commodore PET(1977年)、TRS-80(1977年) などのPCへと発展しました。
② ホームブリュー・コンピュータ・クラブ
アルテア8800は、技術者やプログラマーたちの交流の場を生み出しました。
特に有名なのが、「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」 です。このクラブには、スティーブ・ウォズニアック(Apple共同創業者)やスティーブ・ジョブズ(Apple創業者)などが参加しており、ここで得た知識やインスピレーションが Apple I、Apple IIの開発 につながりました。
③ マイクロソフトの誕生
Microsoftは、Altair BASIC の開発を機にソフトウェア企業としての第一歩を踏み出しました。
その後、IBM PCのOS(MS-DOS)を開発し、世界的なIT企業へと成長しました。
6. アルテア8800の後継機とその後
- アルテア8800b(1976年):改良版。拡張スロットの増加、メモリ容量の拡張。
- アルテア8800c(1977年):コスト削減と安定性向上のためのモデルチェンジ。
しかし、Apple II や TRS-80 などの より使いやすいPCが登場したことで、アルテア8800は市場から姿を消していきました。
MITS社は1977年にコンピュータ市場から撤退し、1980年にはPertec社に買収されました。
7. まとめ
アルテア8800の意義
1. 世界初の商業的に成功したパーソナルコンピュータ
2. S-100バスを生み出し、後のPC拡張バスの基礎を作った
3. Microsoftの誕生のきっかけとなった
4. Apple I や Apple II など、後のPC開発に影響を与えた
5. コンピュータを個人が所有する時代の幕開けを告げた
アルテア8800は、「パーソナルコンピュータの始まり」として、コンピュータの歴史に大きな足跡を残した伝説的なマシンです。
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