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米国の中国封じ込め戦略の趨勢

中国の半導体産業は、米国主導の輸出規制・封じ込め戦略の中でも着実に前進を続けており、その行方は世界の技術覇権構造に深く関わる重大な問題です。ここでは、米中間の対立構造を踏まえ、中国の技術的推移と今後の展望、そしてそれに対して日本が採るべき戦略的対応について考察します。


1. 米国の中国封じ込め戦略とその内容

米国は2019年のファーウェイ排除措置以降、中国の先端半導体産業に対して段階的な技術封鎖を強化してきました。主な措置は以下の通りです。
 ✅先端半導体製造装置(EUV・DUVリソグラフィ)の禁輸(オランダASML、日本の東京エレクトロンなどとの連携)
 ✅EDAソフトウェアや設計IPの輸出制限
 ✅TSMCなど海外ファウンドリに対する対中生産制限
 ✅中国の軍民融合企業(例:SMIC、ファーウェイ)に対するEntity List指定

これらは「技術のブラックボックス化」により、中国の先端製造(7nm以下)の発展を抑制する狙いがあります。


2. 中国の半導体開発の現状と反応

一定の技術的進展
制裁の影響を受けながらも、中国国内では以下のような反応と成果が観測されています。
 ✅ファーウェイとSMICが7nm級プロセスを突破(2023年「Mate 60 Pro」搭載)
  ・米国制裁下においても、DUVリソグラフィとマルチパターニング技術で擬似的に7nmに到達したとされる。
  ・ただし、歩留まり・生産効率・消費電力の点では、TSMCやSamsungには及ばない。
 ✅中国政府による巨額投資の継続
  ・「国家集成電路産業投資基金(通称:ビッグファンド)」による支援。
  ・地方政府も含めた補助金攻勢で、SMICやYangtze Memory、華虹などへの支援継続。

技術自立への模索と限界
 ✅装置・材料面での依存脱却は依然として困難
  ・EUVリソグラフィ、精密レンズ、エッチングガス、研磨剤などで依然として日本や欧米企業に大きく依存。
  ・設計ツール・IPの国産化も限定的

 ✅米Cadence、Synopsys、日本の富士通・アドバンテストなどの代替は進まず、設計面では依然として脆弱。


3. 今後の中国の技術発展の可能性と限界

短中期(〜2030年)
 ✅一定の技術キャッチアップは継続
  ・特に14nmや28nmなど、旧世代ノードでの自立化は進む。
  ・パッケージングやチップレット分野での工夫による擬似的な性能向上。
 ✅AI・5G・IoTなど、用途特化型チップでは国産化が加速
  ・ただし、汎用CPU・GPU・高性能メモリなどでは依然として技術的ハードルが高い。

長期(2030年以降)
 ✅中国が本格的な材料・装置・IPまで含めた完全自立型エコシステムを築けるかどうかが分水嶺。
 ✅外国からの技術流入(密輸・技術者流出)を止められなければ、米国の封じ込めの実効性も限定される可能性がある。


4. 日本の対応策:技術的立脚点と戦略の確立

日本は中国の台頭に対して防衛的対応と攻勢的戦略の両立が求められます。

防衛的対応
1. 技術流出防止の徹底
 ✅先端材料・製造装置の中国企業への供給管理を強化。
 ✅国家安全保障上の観点から、企業・研究者へのガバナンス指導を実施。

2. 日米・日欧連携の強化
 ✅ASML(オランダ)、Lam Research(米)、東京エレクトロン(日)による装置同盟の堅持。
 ✅経済安全保障協定(IPEF、チップ4)への積極関与。

攻勢的戦略
1. 先端技術分野での差別化
 ✅半導体材料(EUVフォトレジスト、エッチングガス)、パッケージング、センサーデバイスでの優位性確保。

2. 次世代人材育成と国家戦略の明示
 ✅国内大学・企業との連携による半導体エンジニア育成。
 ✅「日の丸半導体連合(Rapidus等)」に対する長期的資金と市場支援の継続。

3. 標準・設計領域への進出
 ✅Arm・RISC-Vのライセンス化や共同開発を通じた「設計・知財」領域での主導権争いに参画。


結論

中国の半導体産業は、米国による封じ込め政策の中でも自立化と技術進歩を模索し続けています。しかし、最先端技術においては装置・材料・IPの点で依然として限界があり、完全な技術覇権を握るには多くの障壁が残っています。

日本はこの国際構造の中で、技術流出を防ぐ防衛線を強化すると同時に、自国技術の競争力を高める攻めの戦略が必要です。半導体は単なる産業技術ではなく、経済安全保障と国際競争力の要です。日米・日欧連携のもと、装置・素材・設計・人材の全ての領域で再強化を図り、グローバル技術秩序において日本が不可欠な存在であり続けることが求められます。




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