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これからの半導体市場の成長の特徴

今後も半導体市場が勢いよく伸びていくと予想されているのはなぜでしょうか。実は半導体市場は今、一つの変化を迎えようとしています。これまでのような、象徴的な電子機器の需要に引っ張られて半導体の需要が伸びる時代が終わり、次の時代が訪れようとしているのです。

今、半導体はあらゆるものに使われています。電気で動くものには基本的に半導体が使われているため、電力や通信などのインフラはもちろん、工場で使われる産業機器や自動車などにも搭載されています。今後半導体需要を伸ばしていくキーポイントは、この「あらゆるものに使われている」という部分にあります。1つの電子機器で大きく伸ばすのではなく、あらゆる機器で半導体の使用量が以前より少しずつ増えていくこと、加えて新製品や新たな用途により、半導体需要全体が伸びると予測されているのです。

自動車を例に挙げてみると、ハイブリッド車やEVのさらなる普及により、半導体の需要が伸びると予測されています。実際の数値では、例えばテスラが販売しているEVには1台あたりおよそ十数万円の半導体が使われているといわれています。テスラが販売するEVは世界中で1年間におよそ100万台生産されているため、このEVにおいて1年間に使われる半導体の総額は1000億円ほどです。

また、現在では世界の自動車メーカーがこぞって自動運転の実現に向けてしのぎを削っています。今まではパソコンやスマートフォンが最先端の半導体を必要としていましたが、今後は自動車がその立場になりつつあります。このように自動車の電子化や自動運転化によって自動車業界が必要とする半導体の量が増加するのは間違いありません。

しかし、市場規模を見てみると、エンジンを搭載した従来型の自動車が使う半導体の使用量が増えるほうが短〜中期的には半導体市場への影響は大きくなるのです。こうした状況は自動車業界に限った話ではありません。今まであったものに使われる半導体の量が増える、それがあらゆる分野で起こる、それゆえに半導体の消費量が伸びる、そう考えられているのです。

自動車以上に半導体の使用量が伸びていくと考えられているのが産業機器です。産業機器とは工場などで使用される電子機器を指し、工場で使われるロボット、溶接機といった設備、業務用に分類される印刷機など、非常に多くの電子機器が含まれています。産業機器で半導体の需要が増加すると見られている理由は、単純に電子機器の種類や数が多いだけでなく、世界がインダストリー5.0の実現に向けて動いているためです。

インダストリー5.0とは、2011年にドイツが掲げた国家戦略「インダストリー4.0」をベースに、それをさらに発展させた第5次産業革命を起こそうという構想です。第1次産業革命では、18世紀に起こった石炭によるエネルギー革命に端を発し、さまざまな産業が工業化しました。第2次産業革命では、電気や鉄鋼、石油や化学など、いわゆる重化学工業の分野が大きく発達しました。そして第3次産業革命は、いわばコンピュータの発達であり、半導体の発明からコンピュータの登場といった変革が起こりました。ドイツが提唱したインダストリー4.0の中核となっていたのは「スマートファクトリー」というコンセプトで、産業機器がそれぞれインターネットでつながる世界です。モノのインターネット(IoT:Internet of Things)とも呼ばれ、産業機器などのモノとインターネットがつながる世界とも表現されてきました。コンセプトとしては、例えば消費者がネット上からオリジナルのパソコンをカスタム注文した場合、発注内容がインターネツトを通じて生産機器に送られ、マザーボードやSSDなど必要な部品が自動的に集められて組み立てられます。さらに発注者の指定した色の外装カバーが自動で取り付けられ、それらが自動で梱包され、発注者の指定した住所に発送されていく、これらすべての作業が人の手を介さず自動で行われるような世界観です。しかし2022年現在、実際にはそこまでの進化は訪れていないのが現状です。

それでも、工場の生産機器がインターネットにつながることで、機器の稼働状況が離れたところにいても管理できるようになったり、倉庫の棚がインターネットにつながつていて、在庫数がリアルタイムかつ自動でインターネット上に表示されるような仕組みを実現できるようになったりするなど、産業機器とインターネットのつながりは劇的に強化されました。

インダストリー5.0はここからさらに進み、デジタルツインやAIなどの分野の技術が積極的に活用されるといわれています。デジタルツインとは、現実の世界から収集したさまざまなデータをまるで双子であるかのようにコンピュータ上で再現する技術のことです。例えば、宅配便などの荷物追跡サービスがさらに高度化されて、インターネット上でモノが今どこにあるのかをリアルタイムに追跡できるようになります。現在の荷物追跡サービスは「配送センターにある」「輸送中である」程度しか分かりませんが、荷物を載せたトラックの位置がマップ上にリアルタイムで表示されるようになります。またAIなどの分野では、例えば工場のネジ締めなどの作業において、機械にこの作業をさせるためには、これまでは人が機械にネジ締めの場所を指定しなければいけませんでした。しかし、これからは機械がカメラやセンサにより自動でネジ締めが必要な場所を探して作業を行うようになります。

このように、これまでは人間がやっていた判断を機械が自ら行ったり機械が自動で状況を分析して最適な動きをしたりするなど、機械がより人に近づくといわれています。産業機器がこのような進化を遂げるためには、荷物がどの場所にあるかを検知できるように、要所要所にセンサが必要です。

トラックをインターネットにつなげる機器も必要ですじ、それらで集めた情報を利用者に届けるサーバーも必要になります。これらはすべて半導体を必要とします。また、工場で働くロボットに取り付けるカメラやセンサにも半導体が使われますし、そこで得られた情報を処理するためにもやはり半導体が必要なのです。

今後、半導体の需要は各分野でますます伸びていくでしょう。そのなかでも特に重要となるキーワードは「デジタルとグリーン」です。

「デジタル」の側面では、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大するなか、世界各国では人間同士が接触しなくてもいいように、これまで人が担ってきた作業を機械化・自動化しようという動きが加速しています。人に代わって機械が安全に運転していく自動運転や、AI (人工知能)、無線通信などさまざまな先端技術を組み合わせた次世代交通サービス「MaaS」(マース)も注目されており、普及には半導体が欠かせません。

経済産業省は2021年6月にまとめた「半導体戦略」において、半導体は5G・ビッグデータ・AI・IoT・自動運転・ロボティクス・スマートシテイ・DXなどのデジタル社会を支える重要基盤と位置づけており、「安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術」と、その重要性を強調しています。このような動きのなか、すべての産業でデジタル化の流れがますます強まっていくと考えられます。

「グリーン」という側面では、2050年までに国内の温室効果ガス排出量を全体としてゼロにしようと目指す「カーボンニュートラル」を見据えていることが挙げられます。デジタル投資が今後加速するのに伴い、データ処理量は右肩上がりとなり、技術革新がなければ電力消費もこれからさらに増大していくでしょう。省エネルギーと低消費電力化を進めるうえで重要になってくるのが、革新的な素材で開発されつつあるパワー半導体です。

パワー半導体による省エネ効果への期待は大きく、機器の消費電力を抑えて効率よく電力を供給する動きが、今後さらに増えていくのは間違いありません。

「デジタル」と「グリーン」のほかでは、データセンターの拡充による半導体需要の押し上げも見逃せません。インターネットを利用した動画や映画の視聴が主流になり、またWebミーティングの増加によってかつての文字や粗い画像だけをやり取りしていた時代に比べて通信容量が増え、通信機器やデータセンターなどが増設されています。特にデータセンターに対する投資は新型コロナウイルス感染症対策でテレワークが拡がった後押しもあり右肩上がりで、世界のクラウド大手の2021年度の設備投資額は1500億ドルといわれています。またIoT時代の到来により、エッジヨンピューテイング(利用者や端末と近い距離に分散配置されたコンピュータの周縁部分でデータを処理し、特定の必要な情報のみを保持するネットヮーク技術の総称)が提唱されたことも、半導体需要を伸ばしている要因といえるでしょう。昨今ではeスポーツの普及やメタバースなどの新たなサービスの登場により、グーミングPCやVRゴーグルなどの既存製品が著しく進化を遂げています。その結果、特定の成長ドライバーの分野が極端に伸びていくというよりも、あらゆる分野で半導体の需要が増えることで今後の半導体市場は伸びていくと考えられています。



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