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各国の半導体戦略

半導体市場は非常に巨大で莫大なお金が動きます。また半導体は私たちの生活に欠かせないものであり、ひとたび供給不足が発生すると、自動車や電子機器業界が影響を受けるだけでなく、医療やインフラといった私たちの安全が脅かされる可能性があります。そのため半導体産業を抱える国は自国の半導体産業を守り、成長させるために政策や補助金を用いてさまざまな支援を行っているのです。

米国では現在、半導体製造工場の誘致に力を入れています。米国には売上を伸ばしているフアブレス企業が多く、半導体の設計は国内の企業で行えます。しかし半導体製造においては、現在は台湾や韓国、中国などの企業が急成長をしており、米国企業の世界におけるシェアは下降傾向です。そのため米国では、国内でより多くの半導体を製造できるように、インテルの新しい工場を国内に建設したり、サムスン電子の工場を国内に誘致したりするなどの施策を行っています。米国政府は2020年に「CHIPS (Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)法案」を作成し、1年以上の議論の末2022年7月にこの法案が承認されました。そのため今後7兆円規模の半導体産業投資が行われる予定で、米国は半導体製造を国内に引き戻す動きを強めています。また米国には、安全保障上の観点から特に日本との半導体での結びつきを強化させようという動きがあります。もともと米国では、日本をはじめ、台湾や韓国を味方につけつつ、中国に対する防衛体制を強めていく方針をとっていました。しかし現在、台湾と中国の関係は危うく、また韓国には北朝鮮が接していることなどから、中国側に取り込まれてしまう可能性も否定はできません。そのため米国は、日本との関係を安定させる方針をとろうとしているようです。

欧州は米国と同様の施策を打っており、EU圏内での半導体製造を強化する動きをとっています。2022年2月は欧州半導体法案が提案され、2030年までにはEU圏内で次世代半導体の世界シェア20%以上を獲得することを目標と定めました。またロジック半導体や量子コンピュータ(量子力学の理論を応用して圧倒的な高速処理を実現するコンピュータ)の開発、製造に対しておよそ17兆5000億円、なかでも半導体生産に5.7兆円を投資することが決められるなど、次世代の半導体の覇権を握るための施策に力を入れています。

半導体産業に対して国の支援が非常に手厚いのは中国です。補助金を基に半導体企業が次々と作られ、世界におけるシェアを着々と伸ばしています。中国では、「中国製造2025」という産業政策により、2025年までに自国内で使用する半導体の70%を国産化する目標を掲げており、合計で15兆7500億円の資金が投じられる計画であるといわれています。SEMIの半導体製造装置市場予測によると、中国の半導体製造装置市場は187億3400万ドルで、5年間で約4倍に成長しています。中国は国内での半導体需要もまだまだ伸び、新しいアプリケーションの開発も活発なことから、使い道の多い半導体を大量に生産する戦略といえるでしよう。製造装置の購入額は増加していますが、それらを使いこなす技術がまだ確立されていないという課題はあります。しかし、それも数年すれば他国に追いつくのではないかと予想します。

その一方で中国は米中貿易摩擦を抱えており、米国では安全保障上の理由から通信機器メーカー大手のファーウェイを締め出す施策などが行われています。どの産業にもいえることですが、貿易摩擦により輸出を制限されるのは業界にとって大きな痛手になりますので、今後の半導体における米国と中国の関係は注目すべき事項でしょう。

韓国もまた大規模な補助金事業を行っています。そのなかで、これまでもサムスン電子や韓国SK ハイニックスなどの巨大な半導体メーカーの育成に尽力してきました。特に韓国はメモリ分野では他の追随を許さない圧倒的なシェアを誇っており、全世界の半導体メモリ市場の56.9%を占めています(Omdia 2021)。韓国では2030年までに、世界最大、最先端の半導体供給網KI半導体ベルトの構築を目標として掲げ、その実現のためにサムスン電子などの企業への投資が計画されています。韓国の施策でユニークなのは民間投資を後押しするため、投資家への税額控除や教育支援などを積極的に行っている部分です。政府が力強く後押しをするだけでなく、国民全体を挙げて半導体産業を盛り上げていこうという方針です。

このように多くの国が半導体産業を後押しするなか、当然日本でもさまざまな施策や、新たな法案の提案などが行われています。2020年から半導体を中心にサプライチェーンを国内に呼び戻すために国内投資を行う事業者に対して補助金を投じました。ほかにも災害に備えたり、カーボンニュートラルの実現に向けて半導体製造設備を刷新する事業に対する補助金などが用意されたりしています。

また日本の半導体製造装置メーカーや研究機関、大学と連携しながら最先端の3DIC実装の研究開発を行うことを目的として、2021年3月にTSMCジヤパン3DIC研究開発センターが茨城県つくば市の産業技術総合研究所つくばセンター内に設置されました。ここでは日本の半導体製造装置メーカーとTSMCが共同で2Dや3Dのパッケージング技術を研究することにより、新しいグローバルイノベーションの発信地になることが期待されています。日本はもともと、半導体やその他の分野においても高い設計力をもっていました。若い世代の教育レベルも決して低くはなく、今後も高い能力をもった人材が輩出される可能性は十分にあります。そのため今後日本から、設計力を活かした半導体フアブレスベンチャーが出てくる期待もあります。

さらに日本では現在、パワー半導体を強みとしていますが、この分野は今後、産業機器やエネルギー、環境分野などでの需要がさらに伸びてくると考えられています。


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