TOP > 半導体の出現発展史 > 1997年の半導体産業・技術分野の重要な動向
1997年の半導体業界は、技術革新、業界の再編、そして市場の変動が顕著に現れた年でした。以下に、特に重要なトピックをまとめます。
1. 半導体市場の成長とアジア通貨危機
1997年の半導体市場は堅調に推移し、PC市場の成長とともに需要が拡大しました。しかし、アジア通貨危機(1997年7月~)が発生し、韓国や東南アジアの経済が大きく影響を受けました。特に韓国の半導体メーカーは経済危機の影響を受け、政府支援や業界再編の動きが加速しました。
2. DRAM市場の低迷と価格下落
1997年のDRAM(Dynamic Random Access Memory)市場では、供給過剰が深刻化し、価格が大幅に下落しました。これは、1995年~1996年にかけて各メーカーが生産能力を拡大した結果、1997年には需要に対して供給過剰となったためです。特に、日本のNEC、東芝、日立製作所、韓国のSamsung、LG、米国のMicronなどが影響を受けました。
この価格下落により、日本の半導体メーカーはDRAM市場での競争力を失い始め、韓国勢(特にSamsung)が台頭する契機となりました。
3. IntelのPentium IIの登場
1997年は、IntelがPentium IIプロセッサ(P6マイクロアーキテクチャ)を発表した年でした。Pentium IIはSlot 1という新しいカートリッジ形式を採用し、従来のSocket 7とは異なる設計となりました。このプロセッサは、MMX(MultiMedia eXtensions)テクノロジーを搭載し、マルチメディア処理が強化されました。
この登場により、Intelはx86市場での優位性を維持し、AMDやCyrixとの競争をリードしました。
4. AMDのK6プロセッサの投入
Intelに対抗する形で、AMD(Advanced Micro Devices)はK6プロセッサを発表しました。K6はPentium IIと同等、あるいは一部ベンチマークでは上回る性能を持ち、低価格で市場に投入されました。この影響で、AMDはIntelの独占市場に挑戦する重要なプレイヤーとなり、競争が激化しました。
5. PlayStationの成功とゲーム向け半導体市場の拡大
ソニーのPlayStation(PS1)は1994年の発売以来、1997年までに急速に市場を拡大し、ゲーム機向け半導体市場を活性化しました。特に、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)やメモリの需要が増加し、半導体業界に新たな成長機会をもたらしました。
この流れを受けて、3Dグラフィックス向け半導体の開発が活発化し、NVIDIA、3dfx、ATI(現在のAMD)などの企業が技術開発を加速しました。
6. 半導体製造技術の進化
1997年には、0.25μm(250nm)プロセス技術が導入され、半導体の集積度が向上しました。この技術進化により、以下の変化が見られました:
●トランジスタの微細化:より高性能かつ低消費電力のチップが実現。
●コスト削減:シリコンウェハーの歩留まり向上により製造コストが低下。
●SoC(システム・オン・チップ)開発の加速:複数の機能を統合したチップ設計が進展。
特に、TSMC(台湾積体電路製造)やSamsungなどのファウンドリ企業が微細化技術で進歩し、競争力を高めていきました。
7. 半導体企業の統合と再編
1997年は、半導体業界の統合や事業再編が進んだ年でもありました。特に、日本企業の間ではDRAMの価格低迷による影響を受け、以下のような再編が行われました:
●日立製作所とNECがDRAM事業の統合を検討(2000年のエルピーダ設立につながる)。
●米国の半導体メーカーが合併・買収を進め、競争力を高める動きが加速。
このように、競争の激化と価格低下の影響を受け、多くの企業が事業戦略を見直す必要に迫られました。
8. ファブレス&ファウンドリモデルの成長
1997年は、ファブレス(設計専門企業)とファウンドリ(製造専門企業)の分業モデルが成長した年でした。特に、台湾のTSMCやUMC(United Microelectronics Corporation)が、ファウンドリビジネスを本格的に拡大し、半導体製造の外注化が加速しました。
このモデルにより、NVIDIAやBroadcomなどのファブレス企業が成長し、半導体業界の競争構造が変化しました。
9. フラッシュメモリ市場の拡大
NAND型フラッシュメモリの市場が成長し、東芝、Samsung、Intelなどが技術開発を進めました。1997年時点では、まだHDDが主流でしたが、フラッシュメモリはデジタルカメラや携帯電話向けに需要が拡大し始めていました。
10. 光通信技術の発展
インターネットの普及とともに、光通信技術の開発が進み、光ファイバー通信の半導体需要が増加しました。特に、シリコンフォトニクス技術の研究が進み、今後のインフラ整備に向けた技術基盤が整い始めました。
まとめ
1997年の半導体業界は、PC市場の成長とともに拡大しましたが、DRAM市場の低迷やアジア通貨危機の影響もあり、企業戦略の見直しが進みました。一方で、Pentium IIやK6の登場、ファブレス&ファウンドリモデルの台頭、フラッシュメモリ市場の拡大など、次世代の半導体技術へ向けた基盤が構築された年でもありました。
特に、1997年は韓国企業(Samsung)の台頭、日本企業の後退、ファウンドリ企業の成長という大きな転換点となった年であり、これが2000年代以降の半導体業界の構造変化につながっていきました。
[オススメ記事]1957年の半導体産業・技術分野の重要な動向
[オススメ記事]1950年の半導体産業・技術分野の重要な動向